泌尿器科がん治療成績
泌尿器科のがん治療成績
泌尿器癌として主要な腎癌、膀胱癌、腎盂・尿管癌、前立腺癌の当院での治療成績を示します。
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腎癌
腎癌に対する手術療法は、腎部分切除、腹腔鏡下手術を含めて、根治を期待できる治療法です。当院での遠隔転移を認めない腎癌症例に対する、手術療法の5年非再発率は93.2%、5年癌特異生存率は95.6%です。また、再発症例・転移症例には、分子標的薬、放射線療法、外科的切除、免疫チェックポイント阻害剤の集学的治療が当院では可能です。
筋層非浸潤性膀胱癌(上皮内癌含む)
膀胱の内腔(膀胱の内面)に突出する腫瘍で、膀胱癌の70%はこのタイプです。根は浅く、表面は乳頭状(カリフラワーの様)で狭い茎を持っています。
再発率が約40-70%と高率であることが問題です。また、筋層浸潤性に進行すると膀胱摘除など、より侵襲が高く、QOL(生活の質)をさげてしまう治療が必要になります。
内視鏡手術が第一選択となり、その後、抗癌剤、あるいはBCG(弱毒化した結核菌、特に上皮内癌(CIS)に非常に有効な薬剤)という薬を膀胱内に注入する治療を追加することが治療の中心になります。
膀胱内注入療法は抗腫瘍効果と再発予防効果における有効性が確立されています。
当院では、1) 高悪性度(grade3の要素を含む)、2) T1症例、3) 上皮内癌(CIS)単独、もしくは併存CIS症例に対して、内視鏡治療にBCG膀胱内注入療法を積極的に併用しています。
しかし、膀胱刺激症状・発熱・感染症など副作用もあるため慎重に使用しなくてはいけません。
以上の治療を用いることで、当院の筋層非浸潤性膀胱癌(2007年-2016年、198例)の5年非再発率は57.6%です。
また、当院では、1) 高悪性度(grade3の要素を含む) 、2) 明らかに3ヶ所以上の多発性腫瘍、3) 3cm以上の腫瘍径に、のいずれかが初回経尿道的膀胱腫瘍切除術(以下TURBT)で検出された場合、高再発率群と考え、膀胱癌診療ガイドライン(2009年)、ヨーロッパおよび米国のガイドラインで推奨されている2nd TURBT (初回TURBTから1ヶ月程度空けて再度TURBTを施行すること) を積極的に施行し、再発率・進行率の低下に努めています。
この2nd TURBTを行うことで、2nd TURBTの適応にならない症例群(再発率が低いと思われる群)と比較して、同等の再発率(5年非再発率59.8%)に再発率を抑えることができています。
筋層浸潤性膀胱癌
筋層浸潤性膀胱癌は致命的になりうる疾患であり、その治療は膀胱温存療法などを含め様々な検討がなされていますが、現在の標準的治療は膀胱全摘除術とされています。T3以上(膀胱の外へ飛び出る)のものは膀胱筋層内にとどまっているものに比べ予後不良です。
当院での膀胱全摘術後の5年全生存率は54.5%、5年癌特異生存率は64.9%です。
また、膀胱癌は高齢者に多い疾患であり、当院でも適応を検討することで積極的に高齢者に膀胱全摘除術を行っています。当院での80歳以上の高齢者に対する膀胱全摘除術周術期合併症に関して検討を行ったところ、80歳未満と比較して大きな差は認められませんでした。
再発・転移した場合、症例によって、抗癌剤による化学療法、免疫チェックポイント阻害薬、放射線療法、外科的切除を行っています。
腎盂・尿管癌
腎盂・尿管癌の標準的な治療法は、腎尿管全摘除術と呼ばれる手術です。
癌の部分だけではなく、癌が存在している側の腎臓と尿管をすべて切除します。
これらの部位を残したままだと、再発の危険性が高まるからです。一般に治療後の成績は腫瘍の深達度(深さ)に左右されるとされています。
当院では、症例により開腹手術・腹腔鏡下手術のいずれかを選択して行っています。当院の腎盂・尿管癌に対する80例の腎・尿管全摘術後の5年全生存率は59.2%、5年癌特異生存率は65.6%です。またT2以下であれば5年癌特異生存率は73.9%ですが、T3以上では35.6%であり、腫瘍の深達度(深さ)で差が生じます。
再発・転移した場合は症例により、抗癌剤による化学療法、放射線療法、外科的切除を行っています。
前立腺癌
当院では限局性前立腺癌に対し、開腹での根治的前立腺全摘除術、および根治的放射線療法(強度変調放射線治療)が可能です。当院での術前に補助療法を行わずに前立腺全摘を施行した症例の5年非PSA再発率は55.17%です。癌死された症例は術前に補助療法を施行していない症例の中では、現時点では認めていません。
検討の結果、PSA高値、pT3(顕微鏡で摘除した前立腺をみると、癌細胞が前立腺外に飛び出している状態)は有意にPSA再発率が高い、という結果でした。
放射線療法に関しては当科ではホルモン療法を組み合わせることで治療成績の向上を目指しています。
PSA値、生検グリーソンスコア、臨床病期を組み合わせたリスク分類(D’Amico 分類)を用いて、ホルモン療法の期間を決定しています。
2017年12月時点で癌死症例はなく、5年非PSA再発率は89.3%です。
当院ではPSA再発をした場合、ホルモン療法、放射線療法、抗癌剤による化学療法などを用いて、余命を全うできるように努めています。